負担付き贈与について
ここ横浜でも連日暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。梅雨明け前から夏バテしそうな陽気が続いていますし、パワーがつく食事を食べて、しっかり睡眠をとって、気力と体力でこの猛暑を乗り切っていきましょう。
さて、今回のブログでは、「負担付き贈与」という贈与についてご案内いたします。
負担付き贈与について考えてみましょう
相続対策や相続税対策をテーマにした記事は、新聞や雑誌などでも頻繁に取り上げられている印象があります。特に、相続税対策として生前贈与に関する記事は、相続税の負担を子供世代に負わせたくない親の気持ちと、財産を前倒しで受け取れる子供世代の気持ちがマッチすることから、比較的関心が高いテーマのように感じます。
生前贈与、という法的な用語はなく、親が亡くなる(相続が開始する)前に、子どもや孫に何かをあげることの俗称で、民法では贈与(第549条)以下に贈与に関する規定が挙げられています。
この贈与ですが、あげる側が「○○をあげるね」とあげる気持ちを表し、もらう側が「○○をもらうね」ともらう気持ちを表して、お互いに握手(実際に握手する必要はありません。)をして、そのモノを引き渡すことによって成立します。贈与の特徴は、このモノの引き渡しを無償(タダ)で行うところにあります。無償(タダ)でもらったモノが贈与税の非課税財産でなければ、贈与税の課税対象になりますので、計算結果によって、もらった人は贈与税の申告と納付が必要になります。「贈与」を受けたので「贈与税」の計算をする、ということについて違和感はないと思います。
一方で、今回のテーマには、この贈与に「負担付き」という言葉が付いています。
この「負担付き」という言葉が付くと何が変わってくるのでしょうか・・・。
負担付き贈与、の「負担」とは?
民法でも、負担付贈与(第553条)という規定が設けられていることからも、一般的な贈与とは違う取扱いになる予感がします。
よくあるご相談が、住宅ローンが残っている自宅を贈与したいというものです。自宅は無償(タダ)であげるのですが、残っている住宅ローンもセットで引き継いでね、という贈与が負担付き贈与になります。この「住宅ローンを引き継ぐ」というところが「負担」になります。この場合、金銭のやりとりはしていないので、無償(タダ)であげているように見えるのですが、もらった側は住宅ローンを背負わなければならないので、完全に無償(タダ)ということではなくなります。
税務的にも負担付きで「贈与」を受ければ「贈与税」の計算をすることになりますが、負担付きで「贈与」をした側は「譲渡所得税」の計算が必要になってきます。
具体例で考えてみましょう。
あげる側(贈与者)ともらう側(受贈者)の課税関係は?
一戸建ての土地付き建物(取引相場による時価5,000万円、相続税評価額4,000万円、建物の減価償却考慮後の取得費3,000万円、住宅ローンの残債額3,500万円)を贈与する場合です。住宅ローンも引き継いでもらうことになりますので、負担付き贈与になります。
<あげた側(贈与者)>
3,000万円で購入したものを3,500万円で譲渡したと考えることになり、譲渡所得税の課税関係が生じます。この場合の譲渡所得は500万円(3,500万円-3,000万円)になります。
<もらった側(受贈者)>
取引相場による時価5,000万円の物件を3,500万円で取得したことになるため、
1,500万円(5,000万円-3,500万円)を課税価格とする贈与税の課税関係が生じます。
この時、相続税評価額4,000万円は使わない、ということがポイントになります。
いかがでしょうか。あげた側(贈与者)も通常の売却であれば、買主から受け取った売却代金の一部を譲渡所得税として納税すればよいのですが、今回のような負担付き贈与ですと、もらった側(受贈者)からは金銭を受け取っていないのに、身銭を切って譲渡所得税を納税しなければならず、資金繰りが厳しくなります。
また、もらった側(受贈者)も、通常は相続税評価額よりも高くなる取引相場による時価を基準に贈与税の計算をしなければならず、贈与税の負担が重くなりがちです。
住宅ローンの引き継ぎの際には、金融機関への事前の根回しが必須ですが、仮に承諾を得られたとしても、思いがけない課税関係が生じる可能性がありますので注意が必要です。
その他に、気をつけておきたい「負担付き贈与」のケースは?
この他にも、負担付き贈与になりやすいケースとして賃貸物件を贈与するケースがあります。こちらは、単に賃貸物件を贈与しているだけのように見えますが、入居者から預かっている敷金・保証金が「負担」に相当することになり、負担付き贈与になります。
この賃貸物件の贈与を負担付き贈与にしないために、賃貸物件本体の贈与とセットで、預かっている敷金・保証金の金額相当額の現金贈与を実行します。そうしますと、贈与を受けた方が預かっている敷金・保証金を精算する金銭を実質的に負担することにはならなくなるため、負担付き贈与ではなく、単純な贈与としての取扱いになります。
例えば、離婚協議が成立する前に、自宅の名義移転を確実にするために、住宅ローン付きの自宅の贈与が行われたり、賃貸アパートの管理や税務申告が手間だけど、売ってしまうのはイヤなので、子どもに贈与してしまおうという時に、賃貸アパートの建物だけを贈与したことで、預り敷金・保証金の精算義務の負担が付いた贈与になってしまったりすることがあります。
贈与対象となる物件価額が高額になりやすいため、思いがけない課税関係が生じて、びっくりするような税額が発生することがありますので、特に不動産の贈与を検討されている場合には、実行する前にご相談頂くことをお勧めいたします。