中小企業・小規模事業者のDX推進について

みなさま、ご機嫌いかがでしょうか。今回は、日頃中小企業や小規模事業者と関わり合う機会の多い税理士・ITストラテジストである筆者が、中小企業・小規模事業者における「DX推進」についてお話させていただきます。

DXとはどういうことなのか

新聞、雑誌、ネット記事でも「DX」という単語を目にする機会が増えました。DXは、「デジタル・トランスフォーメーション」と読みます。言葉のイメージから「IT化でしょ?」「デジタル化でしょ?」と思われることも多いように感じます。デジタル・トランスフォーメーション(以降、基本的には「DX」と表記します)は、今から20年程前にスウェーデンの大学教授が提唱した概念で、現在においても、統一された定義が確立しているわけではありません。行政が施策を推し進める上では、定義づけが必要になるので、経済産業省は、

『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』

と定義しています。ちょっと難しいですよね。

キーワードを抜き出せば、

「①データとデジタル技術を活用して、②変革しながら③競争上の優位性を確立すること」

と言えそうです。

 

DXはやらないよりは、やった方がよさそうにも思えます。さぁDXするぞ、と社長が号令をかけたとしても、「はて、何から始めたらよいのだろうか?」ということになりそうです。もしくは、「ウチはもうDX化を始めているよ」という社長もいらっしゃいそうです。

上場企業では、資金力や人材など経営資源が豊富なので、「DX推進します」と舵が切られれば、部署やチームが編成されて、推進施策が進んでいきます。

しかし、多くの中小企業・小規模事業者では経営資源に限りがありますので、上場企業のような進め方をするのは難しいのが現状です。

そこで、段階を踏んでDXを推進するために、DXにおける3つの段階をご紹介します。

DXを3つの段階で考えてみましょう

DXは3つの段階に分解することができます。

(1)デジタイゼーション

(2)デジタライゼーション

(3)デジタル・トランスフォーメーション

の3つで、(1)→(2)→(3)の順番に進めていきます。順に内容を見ていきましょう。

 

(1)デジタイゼーション

これは、「アナログデータ、物理データのデジタルデータ化」です。具体例としては、

・紙の帳票をスキャンして電子化する

・電子化したデータをクラウド環境に保存し、組織内で共有する

・電話やファックスでの連絡を、メールやチャットで行うようにする

・ミーティングをオンライン化する

・電子署名や電子印鑑を導入する

といったことになります。

ひょっとすると、ご自身がイメージしていたDXは、DXの最初の一歩であるデジタイゼーションということもありそうですね。

 

(2)デジタライゼーション

次は、2段階目のデジタ「ラ」イゼーションです。

これは、「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」で、デジタイゼーションから一歩進みます。具体例でも、実行しようとするとハードルが上がった感じを受けるのではないでしょうか。

・電子契約を導入する

・ECサイト(いわゆるオンラインショップ)で商品や製品を販売する

・RPA(自動化:ロボティック・プロセス・オートメーション)の仕組みを業務に活かす

・IoT(インターネット・オブ・シングス)による製造現場の管理、監視、制御を行う

などが具体例で、これらの仕組みを利活用することで業務の効率化や生産性の向上を図る段階です。システムの導入が必要になるケースが多いのが特徴で、導入が目的になってしまわないように進めていきましょう。

そのためには、業務のプロセスを改めて確認する、現状での問題点を列挙する、従業員のお困り事をヒアリングする、といった現状把握を行ってから、どの部分をデジタル化したら改善されるのか、を検討することが大切です。

 

(3)デジタル・トランスフォーメーション(DX)

いよいよ、3段階目のデジタル・トランスフォーメーション(DX)です。経済産業省的に言えば、『組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革』です。この3段階目に入ってようやく「変革」という言葉が入ってきました。ちょっと雑ですが、言い換えれば「ビジネスモデル全体のデジタル化」です。

デジタル化のツールを利用する1段階目、デジタル化のシステムを導入する2段階目よりも規模の大きなデジタル化、というイメージです。具体例を考えてみても、

・アプリ利用によるタクシーの配車サービス

・ファストフードやテイクアウト利用の際のモバイルオーダー

・(組み込みシステムによる)スマート家電

・自動応答チャットシステムの利用によるカスタマーサポート

などが挙げられます。いずれも業界でみれば、従来のサービス内容から大きな変化、変革をもたらしていることが分かります。

また、筆者も上記のサービスを利用した経験もある程度に社会に浸透していることから、競争上の優位性も獲得していると言えそうです。

 

中小企業・小規模事業者はDXにどう向き合ったらよいのか

対照的に、事業規模が小さくなればなるほど、DXレベルの変革を遂行することはハードルが高くなっていく、というのが筆者の印象です。実際、他の企業の模範になるようなDXの取り組みと成果を挙げた企業として2025年度に経済産業省に選定されたのは15社、DXのスタートラインに立ったとして認定を受けたのは529者(令和5年3月時点)です。

中小企業者数は約336.5万者(中小企業白書2025年版)なので、砂浜に落とした宝石をみつける程に稀少ですね。

 

中小企業・小規模事業者においては、1段階目のデジタイゼーション、2段階目のデジタライゼーションだけでも実施することで業務の効率化が図られ、生産性向上が期待できると考えています。政府としてもDX推進を推奨している背景もあって、IT導入補助金や、その他の補助金でもDXやデジタル化のための特別枠が設定されていたり、審査の加点要素になっていたりする場合もあります。

生産性を向上させるために、会社や事業体の規模や組織体系に応じて、まずはデジタル化できる部分を検討してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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