都市部の不動産相場は暴落するのか!?「2022年問題」について
世間が混乱する恐れがある問題が、起こりうる年にちなんで「○○年問題」として表現されることがあります。過去には、西暦2000年になるとコンピュータが誤作動を起こすとされた「2000年問題」がありました。今回は、「2022年問題」について取り上げます。2022年といえば今から4年後、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の2年先です。この年に、不動産取引市場に土地が大量に出回り、全国的に都市部の土地相場が暴落するのでは!?とされているのが「2022年問題」です。何年も前から言われていたこともあり、国も法改正を含めた施策を講じています。この「2022年問題」の原因の1つとして、「生産緑地の指定解除」が挙げられています。
長期の営農を条件に手にする優遇規定
この生産緑地制度は1991年に設けられました。市街化区域内の農地は「宅地化されるべきもの」としての位置付けなのですが、緑地機能に加えて、将来の公共施設用地としても評価して、「生産緑地」として保全しようという政策です。生産緑地は税制上も優遇されています。固定資産税や相続税では、宅地として評価されるべき土地が、農地として評価され格段に低い税負担になっています。更に、生涯において農業を営むこと等の条件はありますが、贈与税や相続税の納税も猶予されます。
この生産緑地制度には、『生産緑地指定後30年経過後に一定の要件を満たした場合、生産緑地の指定が解除される』という規定があります。1991年に生産緑地制度が設けられて、1992年が初年度の指定。2022年は、1992年の初年度指定からちょうど30年目に当たります。優遇される規定なので、営農者本人やその後継者が農業を営む必要があり、原則として賃貸できません。
農業人口の高齢化も進んでおり、後継者の無い営農者の所有する生産緑地は、2022年に次々と生産緑地の指定が解除されてしまうのではないか、そうなったら最終的に不動産取引市場に都市部の宅地があふれ出てきて、土地の相場が暴落してしまう、という流れになってしまいます。
不動産市場にも影響を与えかねない生産緑地制度
そこで、生産緑地法の改正や都市農業振興基本法が制定されるなど、「2022年問題」の回避に向けた法整備が整えられつつあります。生産緑地の指定から30年経過しても、新たに創設される「特定生産緑地」として延長することを可能にするものです。農地が宅地化されて不動産取引市場に出てくることを抑制する効果が期待されています。
新たに創設された「田園住居地域」
また、都市計画法と建築基準法が改正されて、用途地域の1つに「田園住居地域」が加わりました。用途地域は、その種類ごとに建てられる建物の大きさや使用目的が制限されます。住居系の第一種低層住居専用地域、商業系の商業地域、工業系の工業専用地域など、全部で12種類でした。今回、「田園住居地域」が加わることで13種類になりました。
名称の「田園」からは、のどかな里山の田園風景をイメージしてしまいますが、「田園住居地域」の指定は、基本的には都市部の低層住宅地にある農家さんの敷地が想定されています。
これまで、都市部の農地は「宅地化されるべきもの」という位置付けでしたが、これからは「都市にあるべきもの(都市農業振興基本計画)」としての位置付けに変わり、制度的に表現したものが「田園住居地域」と言えます。
都市部の農地は、主に低層の住居しか建てられないような住宅地の中にある農地が多く、店舗の設置は難しい状況でした。「田園住居地域」に指定されることで、例えば、生産緑地内で生産した農作物をメインに提供するレストランを建てたり、生産緑地内で生産した農作物を原材料とする加工所や、販売する施設を建てたりすることも可能となります。
税制改正も着々と進められています・・・
また、贈与税や相続税の納税が猶予されたり、結果的に免除されたりする、農地等に係る贈与税や相続税の納税猶予規定も、賃貸による耕作維持でも適用を認めるようにする等、贈与税や相続税の納税が猶予されなくなることを防ぎ、納税に充てるために農地を宅地化して売却することを抑制する税制改正が行われています。
都市部の農地を宅地化することは、農家さんだけの問題ではなく、農地周辺の住環境にも影響する大きな出来事です。穏やかな住環境を守ること、乱開発を防ぐこと、開発による経済発展、公平な課税の仕組み、等々バランスを保つべき要素は多方面に多くあります。
このように新たな仕組みが作られ、制度が動き出すことで、今は見えていない新たな問題が出てくることと思います。制度運用の影響についての情報も早く捉えて、対応策を考えられるよう努めて参りたいと思います。