お亡くなりになった方と事業や業務を引き継いだ方の税務的な手続きの期限は?
人がお亡くなりになると、ご葬儀のお手配から始まって、各種行政機関のお手続きなど、次々とやらなければならない事が押し寄せてきて、どんどん時間が過ぎていきます。お亡くなりになった方(以下、「被相続人」と呼びます)の名義の財産をそのままにしておくこともできず、また、被相続人が支払うべき生活費関連の費用の請求書が送られてきたり、納めるべき個人住民税や固定資産税などの税金の納付書が届いたりして、その財産や債務を受け継ぐことになっている親族(以下、「相続人」と呼びます)が支払いや納付を済ませていくことになります。
被相続人が遺言を遺していれば、ひとまずは遺言に書かれたとおりに財産を分けることになります。遺言がない場合で、相続人が1人であればその相続人が財産や債務を引き継ぐことになります。また、相続人が2人以上であれば遺産分割協議という話し合いの場を設けて、被相続人の財産や債務の引き継ぎ方を決めていくことになります。
それと同時進行で、被相続人の死亡した日(厳密には「相続が開始したことを知った日」となっている規定もありますが、「死亡した日」に統一させて頂きます。)を起算日として、期限が定められているいろいろな手続きを、期限内に進めていくことになります。有名なところですと、相続の放棄は死亡した日から3ヶ月以内、相続税の申告は死亡した日から10ヶ月以内、遺留分侵害額請求は死亡した日から1年以内、といったものがあります。
ニコニコ円満相続でしたら、遺言に書かれたとおりに、もしくは遺産分割の話し合いのとおりに財産を分けたりすることも円滑に進むので、いろいろなお手続きも期限に余裕をもって進めることが出来ます。
しかし、遺言に書かれた分け方に納得がいかなかったり、遺産分割の話し合いがうまく整わなかったりすると、特に税務的な手続きの期限を気にしている余裕がなくなってくることが多いように感じます。
そして、相続税の申告期限は死亡した日から10ヶ月以内と比較的長めに設定されていますが、所得税や消費税の手続きの期限は手続き毎に細かく、かつ期間も短く設定されているため、相続税の申告期限が近づく頃にはほとんどの所得税や消費税の手続きの期限が過ぎてしまっているということも結構あります。
所得税の手続きについて
まず初めに所得税について見ていきましょう。被相続人に所得税の確定申告が必要な場合は、相続人が被相続人に代わって所得税の確定申告(これを「準確定申告」と呼びます)をする必要があり、期限は被相続人の死亡の日から4ヶ月以内となっています。この準確定申告は、①年の途中で亡くなってしまった場合と②確定申告書を提出する前に亡くなってしまった場合の2通りがあります。
そして、被相続人が個人事業を営んでいたり、不動産貸付けを行っていたりして、相続人が引き継ぐ場合には、被相続人の廃業届と相続人の開業届を、その廃業・開業の事実があった日から1ヶ月以内に税務署に提出する必要があります。相続人が給与の支払いを行う場合には、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」という届出書も合わせて提出します。ただし、相続人が既に個人事業を営んでいたり、不動産貸し付けを行っていたりする場合や、給与の支払いを行っているには、改めて提出する必要はありません。
青色申告承認申請書の提出期限は?
次に青色申告事業者でない相続人が、青色申告を適用しようとする場合の「青色申告承認申請書」の提出期限です。少し複雑なので、下記に整理します。
(1)被相続人が白色申告事業者だった場合
① 相続人が新たに事業の開始する方で、被相続人の死亡日が1月15日までの場合
提出期限:その年の3月15日
② 相続人が新たに事業の開始する方で、被相続人の死亡日が1月16日以降の場合
提出期限:死亡した日から2ヶ月以内
③ 相続人が白色申告事業者だった場合
提出期限:その年の3月15日(青色申告を適用しようとする年の3月15日)
(2)被相続人が青色申告事業者だった場合
① 被相続人の死亡日が1月1日から8月31日までの場合
提出期限:被相続人の死亡の日から4ヶ月以内
② 被相続人の死亡日が9月1日から10月31日までの場合
提出期限:その年の12月31日
③ 被相続人の死亡日が11月1日から12月31日までの場合
提出期限:その年の翌年2月15日
④ 相続人が白色申告事業者だった場合
提出期限:その年の3月15日(青色申告を適用しようとする年の3月15日)
青色事業専従者給与に関する届出書の提出期限は?
また、相続人が新たに事業を開始する方で、親族に支払った給与を必要経費に算入しようとする場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。提出期限は下記になります。
(1)被相続人の死亡の日が1月15日までの場合
提出期限:その年の3月15日
(2)被相続人の死亡の日が1月16日以降の場合
提出期限:事業開始の日から2ヶ月以内(実質的には死亡の日から2ヶ月以内)
棚卸資産や減価償却資産についての届出は?
そして、相続人が新たに事業を開始する方で、被相続人の事業を引き継いだ場合には、その引き継いだ年の翌年3月15日までに、「所得税の棚卸資産の評価方法の届出書」と「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を提出することができます。特に、「減価償却」については、その対象となる減価償却資産の「取得価額」「取得した日」「耐用年数」は被相続人のものがそのまま引き継がれますが、「償却方法」については引き継がれないところがポイントです。(なので、法定償却方法によらない場合には、別途届出書が必要になります。)
消費税の手続きについて
次に消費税について見ていきましょう。消費税は納税義務の判定方法が複雑なので、その判定方法には触れず、相続があった場合に必要になると思われる届出書と提出期限のご紹介にとどめさせて頂きます。
(1)相続人が新たに消費税の課税事業者に該当することとなった場合
①『消費税課税事業者届出書』
②『相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表』
提出期限: ①・②ともに「速やかに」
(2)消費税の免税事業者である相続人が課税事業者を選択しようとする場合
『消費税課税事業者「選択」届出書』
提出期限:その年の12月31日
※ 被相続人が提出していた「課税事業者選択届出書」の効力は相続人には引き継がれません(消費税法基本通達1-4-12(1)参照)
(3)個人事業者である相続人が、消費税の簡易課税制度を選択していた被相続人の事業を引き継いだ場合で、相続人も簡易課税制度を選択しようとする場合
『消費税簡易課税制度選択届出書』
提出期限:その年の12月31日
そして、上記(2)と(3)の期限は「その年の12月31日」になっていますので、被相続人の死亡の日が例えば12月31日だと、その日が提出期限になってしまいます。そこで、被相続人の死亡の日が12月の場合には特例が設けられています。
被相続人の死亡の日が12月の場合には、「期限内に提出できないやむを得ない事情」があるとして、上記(2)と(3)の提出期限を翌年2月末まで延ばすことができます。
この提出期限を延ばすためには、被相続人が死亡した12月中に、下記の各申請書を提出する必要があります。
① 『消費税課税事業者選択(不適用)届出に係る特例承認申請書』
② 『消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書』
いかがだったでしょうか。被相続人と相続人それぞれの税務上の状況に応じて、届出の種類や期限が変わってきて煩雑だという印象をお持ちになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に消費税の届出については、その提出の前提として、ここでは触れていない納税義務の判断が必要になってきますので、より慎重な判断が求められます。この記事に記載されていることで全てを網羅できているわけでもありません。
円満な分割のためにも、また円滑な事業の引き継ぎのためにも、弁護士や税理士をぜひご活用ください。