経営改善のきっかけに、簡単な財務分析をしてみましょう。

中小企業白書2023には、2020年第2四半期を底に、製造業、非製造業を問わず、新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に緩和され、2022年には緩やかに持ち直してきたという統計データが掲載されています。この期間に営業自粛要請に応えた事業者や、経済の停滞により低迷した業績回復を支援するために、様々な補助金や助成金などの形で事業者へ資金が注入されました。また、全額政府保証による融資など、借入金という形でも事業者へ資金が注入されました。

売上の低下に対応するため、仕入れ資金の調達のため、人件費その他経費を支払う資金調達のため、必要な設備投資を実現させるため、と補助金や助成金、借入金は機能したと思います。実際、中小企業白書によれば2021年の倒産件数は57年ぶりの低水準となりました。

 

補助金、助成金、借入金のうち、補助金と助成金については、原則として支給年度の収益に反映されることになり、財務諸表に与える影響は一時的なものになります。

一方で、借入金は、複数年度にまたがって返済義務を伴うことが多いので、財務諸表に与える影響が比較的長期間に及びます。そして、実質的に無利息・無担保で実行された新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者への融資(いわゆるゼロゼロ融資)の返済も始まり、資金繰りに少なからず影響が出ていることと思います。

本来であれば融資を受ける必要は無かったり、設備投資をする必要が無かったのに、事業者の外部の要因から融資を受けたり設備投資をせざるを得なくなったため、事業者の財政状態(財産・債務・資本の状態)や経営成績(損益)が歪んでしまった可能性もあります。

 

そこで、事業者の貸借対照表や損益計算書などの財務諸表の数値を使って計算した指標を基に、事業者の財政状態や経営成績を分析する視点から、事業の健全化を図るヒントをご紹介します。

【 財務分析の3つの視点 】

財務諸表を分析する指標や手法はいくつもありますが、入門編としては「財務的な安全性は高いか低いか」「事業の収益性は高いか低いか」「事業の効率性は高いか低いか」の視点で見るところから始めてみるとよいでしょう。この財務分析の指標の目安は業種・業態によっても大きく変わってしまいます。それは、モノの仕入が発生する業態か、サービスを提供する業態か、の違いによっても全く異なるだろうということからもご想像頂けるかと思います。

(以下、指標の平均値等は中小企業実態基本調査(令和4年度確報(令和3年度決算実績))を参照しています。)

 

【 財務的な安全性は高いか低いか 】

最初の視点は財務的な安全性についてです。事業者の財政的な基盤がしっかりしていて、事業の土台が安定しているかどうかを確認する指標になります。主な指標に「自己資本比率」があります。

自己資本比率は、貸借対照表に記載されている数値を使って・・・

自己資本比率 = 純資産の金額 ÷(負債の金額+純資産の金額)× 100(%)

で計算します。

令和3年度の全業種平均は40.13%でした。

借入金のボリュームが重たくなるほど自己資本比率は低くなります。

一般的に、50%を目指すとよいと言われていますが、この値が高すぎても、内部に留保した利益が効果的に運用されていない可能性がありますので、多面的な検討が必要になります。

 

【 事業の収益性は高いか低いか 】

次の視点は事業の収益性についてです。事業の収益性については、財務分析のド本命である「売上高営業利益率」で検討します。

売上高に対して、営業利益(売上高-売上原価-販売費及び一般管理費)がどの程度生み出せているか、まさに収益力をみる指標になります。

売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100(%)

で計算します。

在庫投資の収益力(仕入れて売っての収益力)がどうかを判断したいときは、営業利益の代わりに売上総利益(売上高-売上原価)を使ったり、借入金の利息なども判断材料に含めたい場合には、営業利益の代わりに経常利益(営業利益+営業外利益-営業外費用)を使ったりしてもよいでしょう。

令和3年度の全業種平均は2.94%でした。

この売上高営業利益率の指標がマイナスの場合には、数値上では本業で稼げていないと評価できますので、商品や製品の利益の乗せ方が少な過ぎないか、仕入原価や製造原価、販売費及び一般管理費の負担の中で改善できるところはないか、などを検討していくことになります。

 

 

【 事業の効率性は高いか低いか 】

3つ目の視点は、事業の効率性についてです。

事業者は資本金や内部に留保してきたこれまでの利益や、借入金として調達してきた資金を運転資金や在庫投資や設備投資に運用して、売上を生み出す原動力にします。この調達した資金が効率的に運用できているかどうかを判断する指標が、効率性を示す指標になります。

主な指標として「有形固定資産回転率」があります。投資した有形固定資産が有効活用できているかどうかを判断する指標で、

有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ (有形固定資産の額(期首と期末の平均)) (回)

で計算します。

令和3年度の全業種平均は3.14回でした。(「回転率」の指標の単位は「回」になります。)

この回数が大きいほど、設備投資した有形固定資産が効率的に機能して売上を生み出していると判断することができます。反対にこの回数が小さいと、有形固定資産の設備投資が事業規模に対して過剰であったり、十分に有効活用できていなかったりする可能性を検討していくことになります。

 

同じように、効率性を示す指標として「棚卸資産回転率」があります。

棚卸資産回転率 = 売上高 ÷ (棚卸資産の額(期首と期末の平均)) (回)

の算式で計算します。

令和3年度の全業種平均は11.34回なのですが、この全業種平均は小売業の在庫も不動産業の在庫も混ざっての平均になりますので、実際には業種に応じた数値を参照することが望ましいです。なお、令和3年度の小売業平均は12.06回なので、仕入れた在庫は毎月新しく入れ替わっていたという統計結果になります。

この回数が低い場合には、在庫量が多すぎないか、発注量は適正か、発注方法を見直す必要はないか、などを検討することになります。また、数値が適正であっても、棚ざらし商品や倉庫に眠っている在庫の多さが人気商品や売れ筋商品の回転率の良さによって隠れてしまっていることもありますので、数値を参考に実地の棚卸の確認も定期的に行うことが大切です。

 

 

今回は、財務諸表の数値を使って計算するいくつかの指標と、それぞれの指標の意味について簡単にご紹介しました。

財務諸表は事業者の通知表と言われることもあるように、数値の面から事業の状態を評価する基礎データになります。そして今回挙げた指標の他にも、「生産性」や「健全性」を示してくれる指標もありますので、経営判断の参考資料として指標を活用し、多面的にご判断頂ければと思います。

 

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