法人設立後によく質問される共済制度3選

みなさん、こんにちは。このところ所得税の分野で副業の所得について話題になることが多いですが、いっそ本業に昇格させるタイミングで法人設立するぞ、という方もいらっしゃると思います。

お勤めされていた方は、これまで勤め先がいろいろお世話してくれていたことをこれからは自分で手当てしていくことになります。経営面で攻めていきたい気持ちもあるけど、将来のことも考えて手堅く守っていきたい、と期待や不安が同時に押し寄せるような気持ちになるのではないでしょうか。

経営面の強みは会社の魅力ですし、機会をうまくとらえて勢いに乗ればよく、経験分野であればよくご存知のことでしょうから、アクセルを踏んでいけばよいでしょう。

攻めは最大の防御とはいえ、具体的に守る策を講じておくことは経営においてとても大切なことです。代表者1人だけの会社であればまだしも、少しずつスタッフも増え、取引先も増え、と企業が成長していくと同時に守りも必要になります。

そこで今回は、法人を設立した後によくご相談を受ける制度を3つほどご紹介します。

3つとも名称に「共済」という文字が入っていますが、制度の中身は全く違う仕組みになります。また、ご紹介する順番で加入されることが多いかな、と思います。

小規模企業共済

1つ目は『小規模企業共済』です。

これはいわゆる「経営者の退職金制度」ということで、法人設立前に個人事業主として事業を行っていた方は加入していることが多いかも知れません。

従業員の退職金は会社が準備してくれるものですが、経営者の退職金は自分自身で用意する必要があります。経営者の退職金を準備する方法はいくつかありますが、小規模企業共済はその方法の1つです。

経営者として加入できる法人には業態や従業員数などの要件があります。また、個人事業主時代から加入してきた方は、設立した法人が要件を満たせば、個人事業時代の共済契約を継続させることができます。

掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で、500円単位で設定できます。掛金は個人負担で法人の経費にすることはできません。また掛金の増額・減額も可能です。

負担した掛金は、年末調整や確定申告で「社会保険料控除」として全額所得控除されます。基本的には、経営者であり続ける限り掛金を納めて、リタイアした時に退職金として受け取り、一括で受け取る場合は退職所得として、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得として、それぞれ課税されます。(死亡退職の場合には、相続税法上のみなし相続財産として死亡退職金の計算に含めます。)

また、65歳になる前に任意で解約する場合には、共済金が戻ってきて一時所得として課税されますが、仕組み上、20年以上加入していないと納めた掛金より戻ってくる掛金が少なくなるので、長く続けて頂くことが必要になります。また、加入して1年以内に解約すると、掛金が一切戻ってこないケースがいくつかあります。

また、個人事業時代に加入していたのに法人を設立して契約を引き継げないケースでよくあるのは開業医の先生の場合です。これは、医療法人がこの共済契約の加入要件を満たす法人に含まれていないためで、個人医院を廃業した時点で解約となります。

詳しい制度にご興味のある方は、下記のホームページをご参照ください。

小規模企業共済|小規模企業共済(中小機構) (smrj.go.jp)

経営セーフティ共済

2つ目は『経営セーフティ共済』です。

こちらは、根拠法令である中小企業倒産防止共済法から「倒産防止共済」と呼ばれていたものが、『経営セーフティ共済』という名称に変わったものです。取引先の倒産という不測の事態による連鎖倒産や資金難を回避するために、迅速な資金調達を可能にする制度です。

資金調達(借入金)できる金額は、掛金の積立額に応じて変わってきます。

その掛金は月額5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で設定できます。掛金は法人の経費として損金算入することができますが、現行法では2つの要件(※)があります。加入時期と設定金額によっては、初年度に限り最大460万円(23ヵ月分の掛金)の損金算入(経費計上)が認められます。

なぜ24ヵ月じゃないの?という声が聞こえてきそうですね。事業年度開始月から毎月20万円ずつ掛けて、事業年度最終月に翌期1年分240万円を前納すると、今期11ヵ月分(前納月は掛金の振替が無いためです)と翌期12ヵ月分となり、合わせて460万円(23ヵ月分)となります。前納制度では12ヵ月を超えて前納することもできますが、前納で損金算入が認められているのは租税特別措置法の法令解釈通達により12ヵ月分までになります(租税特別措置法通達66の11-3)。

 

閑話休題、掛金の積立には上限があり、総額800万円まで積み立てられます。

多くの中小企業がこの積立を損金経理(経費計上)しているため、貸借対照表には表れない、いわゆる簿外資産になっています。そのため、解約した時には解約手当金がまるまる法人の課税所得を構成します。

また、取引先の倒産によらなくても、この積立分に応じて一時借入金を受けることもできます。

(※)法人の経費として損金算入する2つの要件

・法人税法別表10(7)を作成する (別表番号は時々変わるのでご留意ください。)

法人税法別表10(07)

・適用額明細書を作成する (赤枠の中に記載します。)

適用額明細書

適用額明細書の区分番号一覧表(令和4年4月1日現在)

租税特別措置法の条項は 「第66条の11 第1項」

区分番号は       「00374」

金額は  「法人税法別表10(7)を作成した際に27番の欄に記載された金額」

を記入します。

 

法人税申告書に、この2つの書類の添付や記載がないと損金算入が認められません

 

詳しい制度にご興味のある方は、下記のホームページをご参照ください。

経営セーフティ共済|経営セーフティ共済(中小機構) (smrj.go.jp)

 

中小企業退職金共済

3つ目は『中小企業退職金共済』です。

こちらは、雇用する従業員の退職金の備えをしておくものです。『中退共』の愛称を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

起業して従業員を雇用すると、気になるのが福利厚生面です。

大企業や一部の中企業と違い、小規模零細企業で退職金の財源をコツコツ積み立てて、退職時にド~ンと支給するケースはあまりありません。経営者としては長年働いてくれた従業員やその家族のことを思えば、退職金を用意してあげたいというお気持ちになるでしょうし、実際にそういうお話も聞きます。とはいえ、月々の資金繰りの中から退職金の積立資金を捻出することは簡単ではありません。そのような会社は『中小企業退職金共済』という制度の利用が選択肢に登場します。

こちらは、法人が退職金共済契約を結んで、掛金を納めていきます。掛金は全額法人負担になり、全額が損金算入となります。掛金は月額5,000円から30,000円までの範囲で16種類設定されていて、従業員の給与額や職制上の地位などに応じて任意に選びます。昇給や昇格によって掛金を増額することも可能ですが、掛金の減額には減額対象となる従業員の同意が必要になります。

退職時には、退職者に中小企業退職金共済本部より退職金が「直接」支払われます。「法人の口座に一旦振り込まれて、法人から退職者に振り込む仕組みではない」という点がポイントです。

退職者に支給される退職金には、掛金と納付月数に応じて決まった基本退職金に加えて、掛金の運用実績に応じてプラスされる付加退職金も支給されます。

こちらも、詳しい制度にご興味のある方は、下記のホームページをご参照ください。

中小企業退職金共済事業本部 トップページ (taisyokukin.go.jp)

 

法人設立後に質問される共済制度3選、ということで3つほど制度をご紹介しました。

起業して法人を設立し、ご自身の将来、法人の資金繰り、従業員の将来、に備えることで、更に前向きに事業を行っていけると思います。

経営、会計、税務にご不安がございましたら、お気軽にご相談ください。

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