税金対策より相続対策~不安定な税制に振り回されないために~
皆さん、こんにちは。
今年は早くも花粉症にとっては辛い季節がやって参りました。
確定申告期間もまだ折り返し地点だというのに。
さて今回は、税金対策と相続対策はどちらに重きを置いて考えた方がよいか、というお話です。
以前書いた内容と、似たようなブログになってしまうのは気のせいでしょうか。それはきっと、私が日々お話を伺っている中で、強く感じているからなのだと思います。税金対策も相続対策もどちらも考えておくべき事柄ではあります。誰しも必要以上の税金は納めたくない、というのが人情です。きっと租税が租庸調の時代から、率先して納税していた人はそうそう居なかったことでしょう。
税金対策、と一口に言っても、相続の場面では相続税以外の税金が登場することもあるのですが、ここでは相続税を中心に見ていきたいと思います。
相続税でよく登場する3つの優遇規定とは
相続税で考えれば、その税額に大きく影響する優遇規定がいくつかあります。
例えば、
・生命保険金の非課税枠の規定
・小規模宅地等についての課税価格の計算の特例
・配偶者に対する相続税額の軽減
といった規定は、比較的適用を受けやすいものかと個人的には思っていますし、実際の相続税の申告書でも適用する機会がとても多い規定になります。
これらの優遇規定があるのは、実際に相続が起きてしまったあとに、財産を受け継いだ相続人の方々の暮らしが、相続税の負担によって激変してしまうことをできるだけ防ごうという趣旨からです。
生命保険金のうち一定額まで非課税なのは、お亡くなりになった方が、残された家族の生活を支えるために生命保険金が支給されるように備えていたのに、そこに重い税金を課してしまったら、残された家族の生活が不安定になってしまうからです。
小規模宅地等に対する課税価格の計算の特例も、例えば夫が亡くなって、残された妻が相続税の負担によって、それまで住んでいた家を売却しなければならない、なんてことを防ごうとする規定になっています。あくまでも国が考える標準的な住まいについてのお話なので、規定を見る限りでは、豪邸までを守ろうということは想定されていません。
配偶者に対する相続税額の軽減は、今の税制では、夫から妻へ、もしくは妻から夫へ少なくとも1億6,000万円までの財産については、相続税をかけずに移してよいことになっています。夫婦別産制の世の中であっても、一方の財産はお互いに協力して築きあげてきた財産だと思われますし、夫と妻は年齢が近いことが多いので、連続して相続が発生した場合の相続税の負担軽減に配慮したものと言えます。
やっぱり影響が大きい小規模宅地等の課税価格の計算の特例
3つの規定を取り上げましたが、なかでも規定の中身がチョコチョコ変わるのが、小規模宅地等についての規定です。
小規模宅地等の課税価格の計算の特例は、土地の評価減の規定です。要件を満たせば「1億円の評価額の土地を、相続税の税額計算の際には2,000万円として計算してもいいですよ」ということにしてもらえます。このケースでは8,000万円も評価額を下げることができるのです。これはスゴイ!というお話ですし、是非適用したい!と思うのもまた人情、ということで、この規定の適用を狙いにいってしまいがちです。
そして、このようなインパクトのある制度は、残念ながら抜け道を探してズル賢い適用をする人も出てきてしまいます。そして、抜け道をふさぐような税制改正が繰り返されます。
これだけ大きな減額が生まれる規定なのに、チョコチョコと適用の要件や面積制限が改正されるのです。
優遇規定の適用を想定して、しっかり遺言を準備したのに、税制改正によって、準備した遺言の内容では規定の適用が受けられない、なんてことにもなりかねません。遺言はしたためた後の変化に弱いという一面がありますので、税金対策に重きを置いて備えても、対策として機能しないこともあります。その都度遺言を書き換えたり、土地の使い方を変えたりするのは大変なことだと思います。
で、結局のところ税金対策が先?相続対策が先?
青臭いと言われてしまいそうですが、やはり税金対策より相続対策から先に考えるべきだろうと私は考えます。
遺言を残されるのであれば、ご自身の亡き後に、ご家族・ご親族にどのようになっていって欲しいのか、遺す財産をどのようにしていって欲しいのか、遺産分割の話し合いにならないようにしたいのか、等々を想って頂ければと思います。「この遺言の分け方が元で、家族がギクシャクしたら嫌だなぁ」と思われることもあると思います。実際、財産を受け継ぐ家族と話し合って遺言を残した方もいらっしゃいます。ご家族が財産について相談できる雰囲気があるかどうかは、きっとご自身で分かっていらっしゃることでしょう。
税金のことはひとまず置いておいて、あれこれ考えた結果、「さぁ、この遺言通りに事が進んだとして、財産を受けた人が自分の預金で納税しなければならなくなったり、財産を処分しないと相続税が納められなくなったり、なんてことはないだろうか。」ということで相続税の負担を検討してみる。税金対策の出番はこの辺りがよいのかな、と私は思います。
時代の流れに応じて改正される税制を軸に考えても、改正に振り回されてしまいます。
後半は遺言の話が中心になってしまいましたが、遺言に限らず、家族信託の活用も1つの方法です。また、お元気なうちに家族会議でお気持ちを伝えておいて、亡き後に揉めることなく遺産分割協議をなさるというご家族もいらっしゃいます。ご家族の関係によって選ぶべき方法はそれぞれですが、どの方法で備えるにしても、ブレないご自身の想いを大切にお考え頂ければと思います。
そして家族の仲が良いことは、一番の相続対策になります。(と、思います。)