『特別寄与料や遺留分の改正は相続税にどう影響するの?  相続法改正に伴う相続税法改正』

2019年11月26日

みなさん、こんにちは。横浜の税理士 尾花毅彦です。

さて今回は、前回の私のパートに引き続きまして相続税法の改正についてです。

 

民法の改正のなかで、相続税法の改正に影響を与えるものは、次の4点です。

(1)配偶者短期居住権の創設  (令和2年4月1日施行)

(2)配偶者居住権の創設    (令和2年4月1日施行)

(3)特別寄与料の創設     (令和元年7月1日施行)

(4)遺留分制度に関する見直し (令和元年7月1日施行)

 

そのうち、(1)と(2)については7月31日の記事でお話させて頂きましたので、今回は(3)と(4)についてお話させて頂きます。

 

(3)特別寄与料の創設 (令和元年7月1日施行)

相続の場面では、寄与分、という考え方が登場することがあります。相続人の相続分を具体的に決めるときに、被相続人の財産に法定相続分をかけて計算しただけでは不公平が生じてしまうことがあります。この不公平を調整する考え方の1つに寄与分があります。

この寄与分は、被相続人の財産を維持したり増やしたりすることに「特別の」寄与をした人がいるときは、その寄与をした相続人に法定相続分を超えて被相続人の財産を分けてあげようというものです。寄与という言葉が難しいようであれば、貢献、と考えると分かりやすいかも知れません。

この寄与分が認められるためには、「特別の寄与」であって、その寄与によって被相続人の財産を維持したり増やしたりしたといえて、その寄与は無償で行われてきたことが必要です。家族としての一般的な介護では「特別」と評価されなかったり、被相続人の心の支えになっても財産の維持や増加に結びつかなかったり、相続人の貢献に何らかの対価が支払われていたり、となかなか寄与分は認められません

さらに、寄与分は相続人のみに認められた制度なので、例えば被相続人の長男の嫁が、無償で献身的に介護をし、被相続人の財産の維持や増加に貢献していても、寄与分が認められる対象にはなりませんでした。

 

こういった問題点を解消するために創設されたのが、特別寄与料、という考え方です。

これは、被相続人の親族で相続人以外の人が無償で療養看護などを行った場合には、相続人に対して特別寄与料として金銭の請求が出来るようになったものです。

 

相続人に対して特別寄与料を請求できる、といっても、どうやって、いくら請求できるのでしょうか。相続人と特別寄与料を請求する親族が、話し合いによって特別寄与料を支払うことが決まり、具体的な金額まで決められればよいのですが、なかなか難しいのではないかと思います。

まだ制度が始まって間もないのですが、税理士としては、家庭裁判所の助けを借りて解決していくことになるのではないかと思っています。

 

相続税申告の場面では、特別寄与料は、それを受け取る親族が被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。特別寄与料を受け取る親族に、相続税が発生した場合には、相続人ではないことから相続税額は20%割り増しになります。

 

その一方で、特別寄与料を支払うことになった相続人は、受け取るべき相続財産が減りますので、それによって納めるべき相続税額も減った場合には、更正の請求(相続税を多く納め過ぎていたので、戻してください)という手続きをすることが可能になります。

 

 

(4)遺留分制度に関する見直し (令和元年7月1日施行)

遺留分制度は、一定の相続人に最低限の相続財産を受け取る権利を認めた制度、と言えます。実際にこの制度が登場する場面は、一定の相続人が最低限の相続財産を受け取れない状態になっていますので、争いになってしまうことが多いように感じます。例えば、遺言で相続人以外の人のところに被相続人の財産がいってしまい、相続人が遺留分の権利を行使することで被相続人の財産の一部を取り戻そうとしているような場面です。

当事者同士の話し合いで解決すればよいのですが、その多くは家庭裁判所での話し合いや、裁判を通じて解決されているように感じます。

 

従来の遺留分制度では、遺留分減殺(げんさい)請求権、という権利が行使されていました。遺留分を主張する相続財産を選べず、対象となる相続財産すべてに対して遺留分が主張されてしまうため、相続財産に不動産が含まれていたりすると、その不動産が複雑な共有状態になってしまうリスクがありました。そのリスクを避けるために、当事者同士の話し合いや、裁判所での調停もしくは裁判の手続きによって、不動産の持分に代えてお金を支払う解決方法が採られていました。

 

今回の改正では、遺留分侵害額請求権、という権利を行使することになります。相続財産に不動産が含まれていたとしても、遺留分を侵害している価額相当額を最初から金銭債権として請求できるようになったため、その不動産を共有状態にすることなく、遺留分を侵害しているとされる人の名義のままにしておくことが可能となりました。

 

この遺留分侵害額請求によって相続した財産に変化が生じます。遺留分を侵害していた人は侵害額の精算により相続財産は減少しますので、既に相続税を納めていた場合には多く納めていた相続税を取り戻す手続き(更正の請求)を行うことになり、遺留分を侵害されていた人は侵害額に見合った金銭を受け取ることになり、相続財産が増加しますので、不足していた相続税を納める手続き(期限後申告もしくは修正申告)を行うことが一般的です。

 

特別寄与料の請求も、遺留分侵害額の請求も、家庭裁判所への申立てを行うケースが多いと思います。相続税の申告期限は被相続人がお亡くなりになってから10ヵ月以内と決まっていて、家庭裁判所での話し合いがまとまらなくても申告だけは済ませなければならなかったり、場合によっては相続税も納めておかなければならなかったりします。

ご不幸があって混乱していることも多いかと思いますが、できるだけ早い段階で税理士にご相談ください。お話を伺う中で、円満な解決が難しいと思われる時や裁判所のお手続きが必要と思われるケースでは、すぐに弁護士にも関与してもらうことで、裁判所でのお手続きと並行して税務署でのお手続きも進めることが可能になります。

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2019年11月26日相続