『遺産を寄付しよう』というお気持ちを実現させるために

このところ、「遺産の寄付を考えている」というご相談をお受けする機会が増えてきたように感じます。地震や水害などで被災した地域を支援したい、地域にお世話になったので恩返しの気持ちを形で表したい、ご自身の出身校に向けて後輩たちの奨学金の財源にして欲しい、などお気持ちは様々で、そのどれもが、「ご自身の亡き後に、ご自身の遺産の一部を寄付することで、そのお気持ちを実現させたい」という内容です。

 

相続による財産の寄付には、①遺言により遺産を直接寄付先に寄付する方法、と②遺言もしくは遺産分割協議により遺産を取得した人が、取得した遺産を寄付する方法、の2種類が考えられます。今回は①の遺言により遺産を直接寄付先に寄付する方法について、事前に考えておくべきポイントをみていきましょう。

 

(1)寄付先は寄付を受け入れてくれるか確認してみましょう

これが最も大切なポイントになります。寄付なので、「寄付の受け入れ先は喜んで寄付を受け入れてくれる」と思っていらっしゃる方もありますが、必ずしもそうではありません。

住んでいる家を町内会に寄付して寄合所や倉庫として使って欲しい、私道の一部を地元自治体に寄付したい、というお気持ちを伺うこともありますが、「受け取れません」と言われてしまうことがほとんどです。やはりモノで寄付しようとすると、維持管理の問題や寄付を受けた後に売却するときの手続きなど、受け入れ先の負担が大きくなるため難色を示されたり、自治体としても不要な財産の寄付を片っ端から受け入れていく訳にはいかないという事情があったりするようです。まずは、寄付の受け入れ先に意向を確認するところから始めてみましょう。

 

(2)モノで寄付するか、金銭で寄付するか、を考えておきましょう

次に考えるポイントは、「モノ」で寄付するか、「金銭」で寄付するか、です。(1)で「モノ」での寄付の受け入れを表明してくれた寄付先であれば安心ですが、「モノ」での寄付の受け入れに難色を示したところでも、「金銭」であれば受け入れてくれるところが多いです。

遺言に「不動産を売却して、諸費用・税金を差し引いたお金を〇〇に寄付してね。売却手続きについては遺言執行者の方、お願いね。」という内容を盛り込んでおけば、生前に資産を売却しなくてもご遺志を実現することが可能です。

 

(3)寄付する金額は具体的に定めるか、割合で定めるか、を考えておきましょう

寄付する金額については、例えば現金1,000万円など具体的に決めておく方法と、遺産の10分の1のように割合で示しておく方法が考えられます。

割合で決めておくと、次にお話する遺留分には配慮しやすくなりますが、民法や税法では寄付先が相続人と同様の扱いを受けてしまう可能性があります。(本来の相続人を遺贈義務者として特定遺贈としての金銭遺贈として取扱う考え方もありますが、ここでは割愛します。)

寄付先が相続人と同様の扱いを受けることで、遺産を売却した場合の被相続人の確定申告(準確定申告)の申告と納税の義務が生じてしまうことから、寄付先が難色を示す場合もあります。

その点、現金1,000万円など具体的な寄付の内容を決めておくと、寄付先は受け入れるだけで済むことから、受け入れに応じてもらいやすくなります。

 

(4)遺留分には配慮しておきましょう

遺産を寄付するといっても、配偶者やお子様など民法上の遺留分権利者の遺留分に踏み込んでしまっては、ご家族と寄付先との間でトラブルになってしまい、崇高なお気持ちでの寄付にケチがついてしまいかねません。

寄付するモノや金額については、遺留分に配慮した内容にするとともに、売却など資金化を必要とする場合には、事前にご家族の方にお話しておくとよいでしょう。

 

(5)寄付先に応じた相続税の取扱いを確認しておきましょう

遺言により遺産を直接寄付先に寄付する場合には、寄付の受け入れ先によって、寄付した財産については相続税がかかりません。国、地方公共団体、国立大学法人、学校法人、等々、税法上に相続税がかからない寄付先が列挙されておりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。また、町内会や同窓会など税法上では相続人とみなされて相続税の申告納付義務が出てくる団体もあります。経験上、大変感謝されて、申告書に捺印して寄付額の中から相続税もご負担頂けるのですが、初めて寄付を受けられる場合などは混乱されるケースもあります。やはり事前に打診しておかれるとよいでしょう。

また、ご自身やご親族が経営している会社などへの寄付は、相続税の租税回避の規定、被相続人に対するみなし譲渡所得課税とその納税義務の承継の検討、など寄付の内容に応じて考えておくべき事が多岐にわたると考えておきましょう。

 

 

ここまで、遺言による寄付について眺めてきましたが、いかがだったでしょうか。

お気持ちはあるけれど、いろいろ考えなきゃならないことが多くて二の足を踏んじゃうな、という方もいらっしゃるのではないかと思います。

遺言による寄付については、遺言の文言がシンプルであっても、寄付の内容によって課税関係が極端に複雑になってしまうケースもありますので、慎重にご検討頂ければと思います。

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